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カップの中の世界
2006 / 11 / 06 ( Mon )
電子レンジが、私を呼んだ。私は電子レンジの中から、熱々のカップを取り出す。中には、真っ黒に泡立ったココアが入っていた。
「お母さん、この電子レンジ、もうやばいよ。そろそろ新しいの買った方いいんじゃない?」
私は食卓のいすに腰掛けながら、台所の母に声を掛けた。
「あんたがちゃんと見てないからでしょ。まだまだ使えるわよ。」
母は一切私に顔を向けず、声だけで応える。
私は、母に見えないように、表情を崩した。
しかし、なんだかんだ言っても、私はこの黒く焦げた泡が好きだった。スプーンでココアをかき混ぜると、泡と液が混ざり合って綺麗なコントラストが生まれるからだ。
私はスプーンで優しくココアをかき混ぜた。カップの中にはココアの渦が生まれる。この渦は、私がスプーンを勢いよく回せば早くなるし、反対方向に回せば反対方向に回る。
この渦は、私の言いなりなのだ。
普段は感じられない優越感が私を包み込む。

もし、世界がこのカップの中身だったら・・・。

スプーンを動かす手を休めて、ふ、とそんなことを考えてみた。私がスプーンをカップから取り出しても、ココアは渦を巻くのをやめようとはしない。

もし、世界がこのカップの中身だったら、私は、なす術もなく、スプーンの支配に屈するのだろうか。

私はしばらくカップの中の渦巻くココアを眺め、一息にそれを飲み干した。カップの中には、先程までスプーンの支配におびえていたココアが数滴と、カップの縁にこびりついた黒焦げの泡だけが残っていた。
私はこの泡を取ろうとスプーンで少し擦ってみたが、泡は取れる気配を一向に見せない。

私はそれを見て、少し嬉しくなった。

もし、世界がこのカップの中身だったら、私はこの、縁にへばりついた泡になりたい。
どんなに醜くても、決して自分の居場所を失わない、そんな泡になりたい。

私はそう思いながら、カップを流し台へ持っていく。
台所の母は、このカップを見て、洗うのがめんどくさいだの、この煤けた泡をどうにかしろだのと、悪態をついているが、私はすがすがしい気分で母の言葉を聞き流した。
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